寄せ書き色紙の残酷さ

私山田の高校1年生のクラスは、とても居心地がいいクラスだった。

たまたま気の合う人間が多かったのもあるし、リーダーシップを発揮してクラス全体を盛り上げようというイケメンM君がいたので、いつも笑いが絶えない明るいクラスだった。

高校生のスタートの1年がこのクラスだったおかげで、山田の高校生活も楽しいスタートになった。

「楽しかった」おかげで、よりいっそう勉強には身が入らず、堕落していくきっかけの1年という言い方も出来るかもしれないが。

さて、そうして1年が過ぎてクラス替えが行われようとする頃、リーダー的イケメンM君とイケメンを支える女子たちが中心となって、クラスの解散会をしようということになった。

ちなみにこのイケメンリーダーM君は、野球部のキャプテンをしてるわ、坊主頭なのにたしかにイケメンだわ、かといって偉ぶるわけでも自慢げでもなく、文字通りすごいヤツだった。

ごく一部の知り合い(女子・他クラス)は、

「あの人なんか完璧すぎて、裏に何かありそう・・・」

と、根拠のない疑いを口にしていることがあったけど、私山田自身はそんな感じは受けなかったし、スゴイやつだと思ってたかな。とくに仲が良かったわけではないけど、良い関係だったと思ってる。

さて、クラス解散会だけども、他に何をやったかは覚えていないんだけど、最後に寄せ書きの色紙を書こうということになった。

クラス全員、1人当たり1枚の色紙を準備され、中心に名前を書き込まれていた。

例えば私の色紙には「山田くんへ」と書かれていた。

そこに全員が1言ずつ寄せ書きを書き込んでいけば、クラス全員がクラスメートからの寄せ書きを貰えるという仕組みだ。

イケメンリーダーM君が輝かしい笑顔で言った。

「絶対に漏れがないよに、全員が全員の色紙に書こうな!」

正直、離したこともない女生徒とか、とくに仲が良かったわけではない男生徒とか、書くことに困った。きっとみんな、似たような思いだったと思う。

「元気でね!」

なんていう当たり障りのない、特徴のない言葉を書くのは、それはつまり、

「私、あなたのことあまり知らないんだよね」

と言ってることと同義なので、なんとか苦心して書くことを絞り出し、書いたと思う。

寄せ書きって初めてもらったと思うが、家に帰って読むのは楽しかった。

家に帰るまでは「寄せ書き?興味ねえよ」みたいな平静さを装っていたけど、みんなが何を書いてくれるか興味があったから。

私山田、そのクラスではそれなりの存在感があったと自負しているのだけど、実際、寄せ書きには色々とバリエーション豊かな言葉が寄せられていて、嬉しかったのを覚えている。

一度も話したことのない女子が、

「いつも一緒に帰っている彼女と仲良くね」

などと書いてあって驚いた。

「あれ?どこかで見られてたのか?」という驚きもあったし、話したことがない人つまりどんな人かしらない人が、自分をどういう目で見ていたのか、ちょっとだけ知ることが出来て面白かったのです。

イケメンリーダーM君、君はいいことやったぞ!

ところが・・・ところが、だ。

寄せ書きを読んでいって気づいたことがあった。

全員が書いてくれているか調べたわけでもないし、自分が興味ある人がどんなことを書いてくれているかを探しては読んだので、もしかすると書いていない人がいても私自身は気づかなかった。

どうでもいい人が、書いていようが書いていまいが、どうでもいいので。

でも、気付かされることがあったのです。

なんとイケメンリーダーM君なのだが、彼は、私山田の色紙に自分でも気づかない傷を残していったのだ。

書いてなかったわけでもないし、嫌なことが書いてあったわけでもない。

それなのに何が傷なのかというと、M君は私の色紙に「2つ」書いていたのだ。

ぜんぜん違う言葉が、2つ書いてあった。

イケメンリーダーM君、私のことがとくに好きで2回も書きたかったわけじゃないだろう。

「書いたかどうかわからない」から、わからないままに2度目を書いたのだろう。

その人のことを思って言葉を探していれば、

「あ、山田のはさっき書いた」

と記憶に残っているはずである。

2度書くことなんてありえない。少なくとも私だったら、そんなことはしないだろうな。

イケメンリーダーM君、私のことはそれほど興味なかったのだ。

書かなければ気づくこともなかったのに、彼はうっかり2度書いてしまうというミスを犯してしまい、

「おれ、山田に興味ない」

とはっきり突きつけてしまったのである。

ま、実のところ、M君はリーダーとして素晴らしい人間だったが、私としてもとくに仲がいいという印象はなかったので、特別ショックだったということはないのだけど。

ミスター・パーフェクトなリーダーM君が、こういうミスをやらかしたという事実は、今でもこうして記憶に残っているのです。彼は永遠に気づくことはないっていうのも面白い。

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